2025年1月28日に発生した八潮市内における道路陥没事。一人のトラック運転士の方が巻き込まれただけでなく、近隣住民や中川流域下水道流域の非常に多くの方々に生活上の不便を引き起こしている、重大事故です。被害にあった運転手の方には本当に気の毒に思います。
本件について、私が知る範囲で解説します。なお、現場は遠くからちょっと見ただけです。下水道関連の専門家としての知識と理解から、述べています。また、最初は2月2日にこのブログをあげたのですが、その後Water-nの奥田様から埼玉県流域下水道マップであるとか埼玉県危機対策会議のページに情報があることを教えていただきました。今日修正したものを公開する次第です。
現場では3本の下水管が図1のように交わっています。一本は赤色で示した線であり、県が運営する中川流域下水道の中央幹線です。他の青色で示した二本は八潮市の下水道の幹線で、右側からくる八潮市3号幹線と左側から来る八潮市1号幹線が合流し、そして流域下水道中央幹線に合流します。交差点内のどこをどのようにこれらの管が走っているのか、正確なところは私は知りません。3本の管路と陥没の発生した地点の大まかな位置関係だけが示されているものとしてご覧ください。より詳しい位置関係は埼玉県危機対策会議の第5回の資料にあります。(2/12追記:埼玉県復旧工法検討委員会の資料に当該位置のより詳しい図面が掲載されています。)

図1の情報源
下水管の大まかな位置:八潮市公共下水道平面図、2024.4現在、および、埼玉県危機対策会議の第5回の資料
流域下水道中央幹線の直径:令和4年度埼玉県流域下水道維持管理事業概要 4章中川流域下水道
陥没地点およびスロープの位置:各社の報道画像から著者推定
下絵の地図:OpenStreetMap
県が管理する流域下水道と市が管理する下水道の関係については、後ろの方の(1)で解説しています。また、下水管の中を水がどのように流れているのか、ご存知ない方も多いかと思いますので、(2)で解説しました。
また、一言で下水管が原因となる道路陥没と言っても大きいものから小さなものまでいろいろあり、下水管に穴が開く原因も様々です。そして、管に穴が空いてから道路陥没が生じるまでの過程には地下水の流動や雨が関連します。これらのことは(3)に解説しました。
さらに、下水管の中での硫化水素の発生から管路の腐食に至るまでのメカニズムや硫化水素による腐食への対策について(4)に解説しました。
さて、図1に戻って今回の陥没の現場ですが、不幸な条件が複数絡んでいるものと見ています。
一つ目は、ここに到達する流域下水道中央幹線を流れる下水中の硫化水素の濃度が高くなりやすい条件が二つ挙げられることです。一つ目は巨大な流域下水道システムの下流近くに位置しており、水中には流下に伴って生成した硫化水素がたまっているでしょう。また、もう一つは、この交差点にいたるまでの約1.5kmの区間ですが、それよりさらに上流では直径4m以上の管が用いられているのに対して、この区間は直径3mとなっており、その分水深が深く、管内を流れる水に酸素が供給されにくくなっており、硫酸還元が進行しやすい条件となっています。
二つ目は、極めて下水の流れに乱れが生じやすい構造になっている点です。以下の四つの要因が関与します。
流域下水道中央幹線が、大きな角度ではないにせよ現場で折れ曲がっていること。
流域下水道中央幹線が、この交差点の前後で直径3mから直径4.75mに太くなっていること。これによって、私の計算では上流と下流を比べると水位が20cm程度低下します。その分エネルギーが失われるのですが、それは水流に渦を形成することで失われるのです。
流域下水道中央幹線の管底が、この交差点の前後で標高–10.429mから–13.031mに、2.5m以上も低下すること(埼玉県流域下水道マップによる)。もちろん垂直に段落ちするわけではないのでしょうが、それでも水流は大きな落差を経て渦巻くことになるでしょう。
八潮市の幹線がここで流域下水道中央幹線に流入してきていること。埼玉県流域下水道接続等取扱要綱の記載を参考にすると、この流入は図2のようになっています。もしこのような流入の仕方をするなら、流域下水道中央幹線の下水の流れを流下方向に向かって時計回りに回転させる効果をもたらし、そして、水流の底の方の水塊を水面に持ち上げてしまうでしょう。なお、埼玉県危機対策会議の資料では、どうやらこの交差点の下には大きなマンホール室があり、そこで市の下水を流域下水道中央本管に入れています。そのマンホール室の大きさですと、もしかすると図2のような入れ方ではなく、例えば、市の下水道からの下水を流域下水道本管の流れに水を直接落とすのではなく、少し手前で一旦落としてから、穏やかに合流させているのかもしれません。
上記いずれも下水中で生成した硫化水素の揮散を促進するものです。上記のうち、特に2.と4が要因として大きいだろうと思っていたのですが、おそらく3.で述べた落差について知った今は、これが最も支配的な影響を与えたであろうと考えています。

図2の情報源
・埼玉県流域下水道接続等取扱要綱(令和3年3月)の情報をもとに、佐藤が作成
三つ目は、合流部の構造が複雑だという点です。点検に死角ができやすかった可能性もあるかもしれません。合流部には大規模なマンホール室が設けられているものの、それでも構造的にはやや複雑です。
四つ目は、地下水位が高いという点です。いったん下水管に穴が開くと常時地下水が下水管内に流入することとなります。
さらに、現地には雨水を流す雨水管や用水路として用いられたボックスカルバートがあるようですが、もしそれらに漏水があると、穴の成長を促進したかもしれません…。これは憶測に過ぎませんが...。あとは、土質が水に流されやすいということもあったでしょう。
平成27年に下水道法が改正され、下水道の維持管理に向けての体制が整備されました。それからおよそ10年経ちますが、これから長く続く維持管理の時代の幕開けに過ぎません。まだまだ研鑽を積み重ね、技術を高めていかなければなりません。今回の事故からたくさんのことを学び、今後の下水道の維持管理に活かしていかなければなりません。
また、今回の事故に関して強く心配しておられる方もいらっしゃることと思います。危険性の高い地点については洗い出し可能であり、今後対策が進んでいくことを願っています。
(本文は以上です。2025/2/2 佐藤弘泰)
参考
(1) 流域下水道と市の下水道
今回の陥没事故に関連しては、埼玉県が運営する流域下水道の下水管が破損したことが原因となっているようです。流域下水道は、複数の市町村で発生した下水を集めて下水処理場まで運ぶ幹線の下水道と、終末処理場(下水処理場)からなるものです。複数自治体にまたがるので、今回の中川流域下水道は埼玉県の管理ということになります。埼玉県が管理し、お客さんは八潮市などの関連市町村です。個人や個々のビルなどは流域下水道に直接接続することはありません。
一方、八潮市は各建物・事業場から下水を収集し、流域下水道に流すための下水管を管理しています。各市町村が運営するそうした下水道の多くは公共下水道に分類されます。
八潮市の場合は集めた下水は流域下水道に流すので、下水処理場は持っていません。一方、集めた下水を流域下水道に流すのではなく、自前で運営している下水処理場で処理・放流している自治体もあります。
下水道でも市が管理する公共下水道と県が管理する流域下水道があることを、まずは踏まえていただければと思います。
(2) 下水管の太さと下水管内の水位
今回の中川流域下水道の下水管の直径は4.75mとされています。実際のところは、交差点より下流側は4.75m、上流側は3.0mなのだそうです。人の身長の2、3倍くらいでしょうか。
では、まちなかの住宅につながっている下水管の太さはどれくらいでしょうか?
住宅街の道路に埋まっている下水管は、概ね直径15cm〜25cmくらいで、20cmくらいが多いです。建設された時期や自治体によって、多少違いがあります。また、そこから分岐して戸建て住宅につながる管は10cm〜15cmです。流しの下の水道管と比べてみてください。ずいぶん太いですよね?水道は圧力をかけて水を流すので、細い管で良いのです。下水道は基本的には、水が高いところから低いところに向けて自然に流れていく性質を利用して下水を集めるのですが、水以外の成分も入っていて水の流れを阻害してしまうこともあるので、少し太めの管を用いています。
なお、重力で水を集める管を重力式、一方、圧力をかけて水を送る管は圧力式と呼ばれます。水道の場合は全て圧力式。下水は、大半が重力式で、一部区間で圧力式となるのが普通です。(水理学を学ぶ学生さんに向けての注意:水理学で管路の水理と言っているものは、圧力式の管路の水理のことです。下水管の大半を占める重力式下水道では、開水路の水理として扱わなければいけません。)
重力式下水道の下水管は、最も流量が大きな時間帯でも水位は管径の半分以下になるように設計されます。つまり、下水管内の空間の半分以上は、空気ということです。特に上流末端の方では、人々が寝静まっている時間帯は水が全くないということもしばしばです。一方、下流の方ではそれなりの水量が常時流れていることとなります。
今回事故のあった下水管は直径4.75mですが、通常の水位はおそらく1mを少し下回るくらいです。一見ずいぶん余裕があるようですが、将来の都市の発展の可能性などを考えて余裕を持って設計されたのでしょう。
追記(20250203):
日平均流量を30万㎥、上流側管径3m・勾配0.0008、下流側管径4.75m・勾配0.0009(管径、勾配は埼玉県流域下水道管路マップより)とし、等流状態での流速がManningの式に従い、Manningの粗度係数を0.013として計算すると、上流側の水深は1.08m、下流側の水深は0.89mとなりました。
(3) 下水道と道路陥没
・下水道に起因する道路陥没
下水管に何らかの原因で穴が開くと、その穴から地下水や雨水が下水管の中に入ってくることになります。その時、水だけが入ってくるのならまだよいのですが、穴の周辺の土砂も一緒に下水管に入ってきます。そうすると、穴の周りに土砂が抜けた空洞ができてきます。長い時間のうちに徐々に空洞が大きくなり、やがて地表が大きく窪んだり、あるいは、アスファルトがある日突然抜けるような事態を引き起こします。
では、なぜ下水管に穴が開くのか…。今回の八潮の事故では下水の中で発生する硫化水素が原因であるというような情報が流れています。実際、硫化水素は下水管に穴を開ける重要な要因の一つであり、その詳しいメカニズムは(4)で述べます。
・硫化水素以外の原因による管路の劣化
下水管に穴が開く原因は、硫化水素以外にもいろいろあります。古い時代に建設された下水管や取付管(建物と道路の境界部に設けられた下水のますから公共の下水管に接続する管)は陶器でできているものもあり、衝撃に弱く破損しやすいですし、接続部で水漏れが発生しやすいです。昭和40年代ごろ開発された住宅地では取付管には紙にアスファルトを染み込ませて耐久性を持たせたZ管が用いられている場合があり、約50年を経過した今頃になって、劣化が進んできています。長い年月のうちに地盤が動くと、管どうし、あるいは管とますやマンホールの接続に隙間ができることもあります。大雨にともなう地下水の流動や地震がそうした隙間の生成を促進します。
概してこれらの原因(すなわち硫化水素以外の原因)で生成する穴は、地表に近い下水管で発生しやすく、また陥没も小規模であり、大事故に結びつくことは稀です。陶管やZ管は破損しにくく水漏れも起こしにくい塩ビ管に取り換えれば、もう心配はありません。陥没が起こる前に塩ビ管に取り替えることで、事前に予防することもできます。接続部の破損も、地盤の変化に追随できる可とう式の継手を導入することで対応できます。
ただし、接続部の破損は大口径の管路でも発生することがあり、その場合は大規模な事故に結びつきえます。ただし、管どうしの接続部ではなく管とマンホールの接続部が破損しやすく、その場合はマンホールからの点検で発見できます。
以上のように、硫化水素以外の原因による下水管への穴の生成とそれによる道路陥没は、件数こそ多いものの事前の発見と対応が可能です。
・管路に穴が空いてから道路が陥没するまで
管路に穴が空いても道路の陥没がすぐに生じるわけではありません。
雨のたびに地下に染み込んだ雨水の流動に伴って土砂が少しずつ下水管の中に入っていき、地下の空洞が成長します。ただし、下水管が地下水面より深いところに存在している場合、地下水は下水管壁にできた穴を通って常時下水管内に流入してくることとなります。この場合は地下の空洞の成長が早くなる可能性があります。しかしとはいえ、地下水面に近づくと成長は遅くなることも予想できます。ただし、空洞が必ず生成されるというわけではなく、空洞の周囲の地面がだんだん下がっていることもあります。
また、今回の八潮市の陥没現場では、排水のための排水路や雨水を排除するための雨水管も布設されているようです。雨の時、もしこれら水路・管から雨水が地下に漏れていたとすると、空洞の成長が促進されたかもしれません。
空洞の成長には地下水の動きがつきものです。
マンホール周辺で地面が少し凹んたようになっていることに気がついたことがある人もいるかもしれません。そうした場合、管とマンホールの接続部に隙間があり、そのせいで土砂が吸い込まれているのです。修理するには地表をならすだけでなく、管とマンホールの接続部を改善する必要があります。
(4) 下水中での硫化水素の発生と、管壁の腐食
先に述べたように、今回の陥没事故の発端となったのは、下水管内で生成した硫化水素であるとの見方が支配的です。注意していただきたいのは、硫化水素そのものがコンクリートを腐食するわけではないこと、また、硫化水素が生成するのは下水管の中を流れる水流の中なのに、腐食が発生するのは下水管の天井付近だったり、あるいは下水の水面付近だったりすることです。
なお、硫化水素は案外身近な物質です。硫黄系の温泉地では硫化水素のにおいがしますし、また、お腹の調子が悪い時、おならから硫化水素のにおいがすることもあります。硫化水素は毒性があるのですが、私たち自身は長い進化の歴史の中で硫化水素の毒性をある程度中和する能力を身につけてきました。だから、硫化水素のにおいのする硫黄系の温泉に入っても大丈夫です。しかし、濃度が高いと私たちの能力では処理しきれなくなり、その毒性によって生命が奪われてしまうこともあります。
硫化水素はまた、コンクリートや鉄など金属を腐食します。ただし、先に述べたように、硫化水素そのものが腐食を引き起こすのではなく、コンクリや鉄の表面にくっついた硫化水素が酸素(以下、酸素は酸素原子ではなく分子状酸素O2を意味するものと理解してください)と反応して生成した硫酸がコンクリや鉄を腐食するのです。硫化水素と酸素との反応には、硫黄酸化細菌と呼ばれる微生物の働きが関わっています。
では、下水管の中でどのように硫化水素が生成されるのか、それがどのように下水管の天井部分や水面付近を腐食するに至るのか、お話ししましょう。
・硫化水素の生成
硫化水素は酸素の存在しない場所で、硫酸還元菌とよばれる微生物の働きによって硫酸イオンが還元されて生成されます。硫酸還元菌は酸素が存在しない環境下で有機物を硫酸イオンを用いて酸化分解してエネルギーを得て、生活しているのです。また硫酸還元菌にとって酸素は反応性が高すぎ毒性が強く、そのため酸素がある環境下では活動しません。その反応の結果、次のように硫化水素が生成されるのです。

なお、右辺のHS–は正確には硫化水素イオンと呼ばれるものであり、厳密には硫化水素ではありません。しかし、次のように水素イオンと反応して硫化水素になります。
HS–+ H+ H2S

ここでは硫化水素と硫化水素イオンを特に区別する必要がない限り、両者を合わせて硫化水素と呼ぶことにします。
下水管の中を流れる下水には、案外酸素が溶け込んでいます。ですから、硫酸還元の反応はそれほど活発ではありません。特に水面付近では下水管内の空気から酸素が溶け込んできますから、硫酸還元はほとんど進行しません。またそもそも、流れている下水の中には硫酸還元菌はごくわずかしかいません。硫酸還元菌がいるのは下水管の内壁(水面より下のところ)や管底に溜まった泥のなかです。
また、上流部の下水は水道水に由来する酸素がたくさん残っていますし、水深が浅いので水面からの酸素の供給を受けやすいので、硫酸還元は不活発です。一方、大きな下水道システムの下流部では、たくさん下水が集まって水深が深くなり、なおかつ下水中で生育する微生物が育ってきて水中の酸素の消費が活発になっているため溶存酸素濃度が低くなり、硫酸還元反応が進行しやすいということになります。下流部を流れる下水の中には、上流部で生育した硫酸還元菌が流れによって剥がされて混入してくることも考えられます。このこともまた、下水道の下流部での硫酸還元反応を活発化させる方向に働きます。
以上から、下水管の中を流れる水流のなかでは、硫化水素が生成されるのは底の方であり、また、上流部よりも下流部の方が硫化水素の生成が活発になりやすいということになります。ただし、生成した硫化水素はまだ水中にあります。水中にある限りは、腐食の問題を起こしません。
・硫化水素の旅路
旅路というのは大袈裟ですが、下水管を流れる下水の底の方で生成した硫化水素がコンクリの管壁にくっつくまでの経路について考えてみましょう。
まずは水中に溶け込んだまま、水面にまで上がってくる必要があります。水の流れが一定ですと、上下方向の撹拌はおだやかであり、水面に来るまでにだいぶ時間がかかるかもしれません。また、水面近くには空気中から水に溶け込んだ酸素があり、硫黄酸化菌と呼ばれる微生物によって硫化水素は酸素と反応されて硫酸にもどってしまうこともあります。水面にたどりつけるチャンスは、流れの上下方向の撹拌の強度に多分に依存します。
水面にたどりついた硫化水素は、気化してガスとしての硫化水素となります。気化のしやすさにはpHが大きく影響します。水中の硫化水素イオン(HS–)が気化して硫化水素ガスになるためには、まずは水に溶け込んだ硫化水素(H2S)となり、それから気体の硫化水素(H2S)となる必要があります。硫化水素と硫化物イオンの酸塩基平衡はpKa=7.04なので、中性から少しpHが低下するだけでH2Sが支配的になりガス化しやすくなります。
もし水流に何らかの理由で空気が吹き込まれていると、硫化水素のガス化はさらに促進されます。滝壺に落ちる水流は空気を巻き込みながら落ちていきます。その場合、巻き込まれた気泡が水面に浮上する時に、水中に溶解した成分の気化を促進します。
さて、ガスとなった硫化水素は、下水管内の空気の流れに乗って移動します。概して下水管の管壁の温度は土の温度と同じくらいであり一年を通じて変化は少なく冷たく、一方管内を流れる下水の温度の方がそれより高いのが通常です。そのため水面の空気は下水によって温められ上昇し、管頂に達し、そこで冷やされて管の内壁に沿って水面にまた戻ってくるような、循環流があると言われています。硫化水素ガスも、また、温かい下水から蒸発した成分も、上昇気流に乗って管頂にあがり、そこで下水管の管壁に沈着します。水分は管壁についた水滴となり、硫化水素はそこに溶け込みます。

図3の情報源
下水道に携わるものには一般的に知られている情報です。図は私が作成しました。
・下水管壁における硫酸の生成と管の腐食
下水管の管頂に生じた水滴は、硫化水素を溶かし込んでいるだけでなく、管壁に生息する硫黄酸化細菌のすみかとなります。また、この水滴の中には下水管内の空気から酸素が溶け込みます。水滴の中の硫化水素は硫黄酸化細菌によって酸素と反応し硫酸となります。
下水管の水面付近の壁面も、常時湿っており、時折硫化水素を含む下水と接触し、時折酸素を含む空気にさらされますので、硫黄酸化細菌の活動が活発で、硫酸が生成しやすいです。
コンクリートの主な成分の一つとして水酸化カルシウムが含まれていますが、それが硫酸と反応して硫酸カルシウムに変換されると、強度が著しく損なわれ、腐食が進行します。
・硫化水素による腐食が発生しやすい箇所
硫化水素による腐食は、硫化水素が生成しやすい条件と、硫化水素が管内の空気中に揮散する条件の二つが重なると、特に進行が早くなります。
そうした箇所として、下水管が合流するところや、管の勾配が急に変化するところ、伏せ越し(例えば川の下を横断する時、下水管がたて穴でいったん深くなり、そして川の下を横断し、再びたて穴で浅い標高に戻って流下を続けるような構造を取ります。これを伏せ越しといいます)の出口のところなど、いくつか特定されており、それらは平成27年に改正された下水道法施行令で、5年ごとの点検対象として指定されています。
・硫化水素による下水管の腐食を避けるには…
一番良いのは硫酸に腐食されない素材を用いて下水管を作ることです。例えば塩ビ管は硫酸に侵されないので、安心して用いることができます。昭和50年代半ばごろ以降に作られた下水管のうち、管径の小さなものの多くは塩ビ管で作られています。小型のマンホールやますも、塩ビ製のものがあります。
また、コンクリートの表面に樹脂で皮膜を作り保護する方法も広く用いられていますし、硫化水素に対して耐性を有する成分をコンクリートに混ぜておく方法も考案されています。
ご理解いただきたいのは、対策できないわけではない(現実的な対策がある)ということです。
なお、下水に硝酸イオン(酸素と同様硫酸還元菌の働きを抑制する働きがある)や三価の鉄イオン(これも酸素と同様硫酸還元菌の働きを抑制し、さらに、生成した硫化水素イオンと結びついて硫化鉄として沈殿する)を加える方法もありますが、一般には薬品代が高価になるので使われません。下水に酸素を吹き込む方法も考えられそうではあるのですが、これも多量のエネルギーを使いますし、下水中の硫化水素を撒き散らすことにつながる場合もあります。
(5) 下水道の維持管理に関するさらに詳細な情報
「下水道の維持管理」といったようなキーワードでインターネットで検索すると、国土交通省が出している情報や、あるいは下水道の維持管理に携わっている団体・企業のホームページが見つかります。
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